しなやかな反応を促す触媒として
- 佐藤 梓
- 4月10日
- 読了時間: 3分
コアメンバー 東京薬科大学薬学部 准教授 佐藤 梓
私は有機化学を専門とする研究者であり、現在は薬学部で教壇に立っています。これまでの25年のキャリアのうち、21年半を東京女子医科大学で過ごしました。医師でも看護師でもない、男性non-MDの化学者・教育者として、医学教育やキャリア支援の現場を支える日々でした。
今回、WeLeadJPのコアメンバーの一員として、異分野の視点からこのブログを書いています。医学教育の現場を21年間、内側から支えてきた者として、伝えられることがあると感じています。
Good enoughという言葉に出会って
高い理想を持ちながら、教育・研究・診療・家庭という複数の役割を懸命に担い続ける女性医師たちの姿を、私は21年間の現場で何度も目にしてきました。医師でも女性でもない私には、その重さをそのままわかるとは言えません。ただ、理想と現実の狭間で揺れるその姿は、自分自身の問いとも重なっていました。
論語では50歳を知命(天命を知る)と言いますが、50歳を過ぎた今も、私自身、不惑でもなければ知命でもありません。思い描く姿と自分の限界の狭間で悩み、環境の変化に心が折れそうになったこともありました。今でも、「これでいいのだろうか」と自問自答しながら歩んでいる最中です。
そんな折、最近出席した息子の高校の卒業式で、ふと耳にした祝辞が心に残りました。
「ウェルビーイングであれ。物質的な豊かさだけを目指すのではなく、自己変革や、Good enoughを大切にしてほしい。」
ウェルビーイングという言葉が高校生にまで説かれる時代なのかと驚くと同時に、それが単なる流行語ではなく、人が自分らしく進み続けるための本質的な指標なのだと再認識しました。
華々しい成功や完璧なリーダー像を目指しすぎて自分を追い詰めるのではなく、今の自分を認め、悩みながらも仲間と共に少しずつより良い状態を更新していく。そうした姿勢こそが、多くの役割を求められる医療現場や生活の場で、自分をすり減らさずに歩み続けるための心の余白になるのではないかと感じています。
最適な反応条件を整える
有機化学の実験では、有用な反応・変化はただ混ぜるだけでは起きません。適切な試薬・溶媒を選び、温度を調節し、時には反応を促進するための触媒が必要です。
組織における多様性の推進も、似たところがあると思っています。均一な考え方をもつ組織では、新しい変化は起きにくいものです。そこに異なる視点や背景を持つ人たちが混ざり合うことで、組織としての反応が活性化し、意思決定の質が向上する。これは理想論ではなく、より良い医療と、そこで働く人々のウェルビーイングを実現するための、論理的な最適解の1つであると信じています。
女性医師が会議室に増えること、管理職に就くこと。それは単なる数合わせではなく、組織という反応系の条件そのものを変え、これまでとは異なる反応を可能にすることなのだと思っています。
結びにかえて
仕事が大変だった時期に、結果として私を支えてくれたのは、目の前のことから謙虚に学び、仲間を大切にし、なるべく笑顔を絶やさず、何でも良いので新しいことに挑戦してみる。そんな一つひとつの積み重ねと、周りの人たちでした。
どんな立場であっても、自分の場所で、Good enoughを認めながら、少しずつ周囲に働きかけていくこと。それはいつか組織をじわじわと良くしていく、しなやかな反応を促す触媒のような役割を果たすのかもしれません。
大きな変化はすぐには起こりません。でも、機会があれば少しずつ形にしていく積極性を持って、一歩ずつ、共に進んでいきましょう。


