誰もが“自分らしく働ける”医療界へ ― 見えない鎖に挑もう コアメンバー 村田亜紀子
- Marie Washio
- 6月15日
- 読了時間: 3分
「女だから家事・育児をするべき」「男だから仕事をするべき」
――誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
この「仕事か家庭か」という二項対立的な価値観は、性別による固定観念=ジェンダー・ステレオタイプに強く影響されています。
こうした価値観は、女性の尊厳や選択肢を狭めるだけでなく、男性にも過度なプレッシャーを与え、誰にとっても生きづらさを生んできました。
医療界においても、「家庭責任のない男性医師」が医師像の前提とされてきたこと(Kamihiro et al., 2023)から、女性医師は不利な立場に置かれ、意欲やパフォーマンスを保ちにくい環境にさらされてきました(村田, 2024)。
近年では、男性医師より女性医師のほうが医療の質が高いにも関わらず、十分な評価を受けていないというエビデンスも示されつつあります(Temkin et al., 2024)。
私は、出産後に離職を余儀なくされた経験から、学会での男女共同参画推進活動に2011年頃から関わってきました。ガラスの天井、マミートラック、リーキングパイプなど、女性のキャリアが抑圧される構造についても知識として理解しているつもりでした。
しかし、2018年に医学部入試での女性差別問題が社会問題化したとき、「女性が医師になる機会を奪われるのはおかしい」という当たり前の事実を、どこかで“仕方がないこと”と受け入れていた自分に気づき、深い衝撃を受けました。
自分の中の「当たり前」が揺らいだ瞬間でした。
あれから何が変わったのでしょうか。
医療界におけるジェンダー格差は、この30年で少しずつ改善されてきました。
医師の働き方改革が始まり、両立支援制度が整備され、産休・育休の取得も広まりました。DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)も広く語られるようになり、各所でさまざまな取組みが進められています。
それでもなお、出産や育児による中断やブランクがあるだけで、本来の実力とは関係なく「能力が低い」とみなされてしまう現実があります(Temkin et al., 2024)。
ライフステージの変化に伴い、特に女性医師は「医師としての自分」と「個人としての自分」の間で葛藤を抱えやすく、既婚・未婚、子の有無といった違いが、女性同士の間に隔たりや対立を生んでしまうことすらあります(Matsui et al., 2019)。
いまなお、環境や周囲の無理解が、女性医師の意欲をそぎ、有形無形の“鎖”となって苦しめ続けているのです。
医師として働く力があるのに、その能力を十分に発揮できる機会が奪われ、摩擦や葛藤にエネルギーを費やしてしまうのは、あまりにももったいないことです。
こうした状況を俯瞰し、互いを理解しながらこの時代を生き抜き、現状を打開していくためには、「Wellbeing-centered Leadership」を学ぶことが一つの有効な手段ではないかと私は考えています。
一人ひとりの意識が変われば、医療界全体もきっと加速度的に変わっていくはずです。
本学会の活動を通じて、その一歩を皆さんと一緒に踏み出せることを、心から楽しみにしています。
参考文献
1. Kamihiro N, Taga F, Miyachi J, et al. Deconstructing the masculinized assumption of the medical profession: narratives of Japanese physician fathers. BMC Med Educ. 2023;23(1):857.
2. 村田亜紀子. 女性医師の置かれている社会的環境について. 賀來敦編. やればやるほど成功パターンが体にしみこむ医学生・医師のライフキャリアワークブック. 京都: 金芳堂; 2024. p.175–181.
3. Temkin SM, Salles A, Barr E, et al. “Women's work”: Gender and the physician workforce. Soc Sci Med. 2024;351(Suppl 1):116556.
4. Matsui T, Sato M, Kato Y, et al. Professional identity formation of female doctors in Japan – gap between the married and unmarried. BMC Med Educ. 2019;19(1):55.
